ねじ職人コラム

Screw Craftsman Column

その他

2023/11/15 | その他
ハイテン用溶接ボルト「ノンヒートスタッド」

ハイテン材(高張力鋼板)用溶接ボルトの紹介です。一般的に溶接ボルトは鉄製で、熱処理を施して強度区分を8.8(引張強度約800Mpa)程度まで上げた後、溶接利用します。この熱処理過程でボルト内の炭素量が増加します。炭素量の増加は溶接性を悪くします。せっかくボルトの強度を上げても溶接性が悪ければ、溶接部分からボルトが剥離したりします。したがって、溶接ボルトは強度区分を少し下げてボルトへの炭素含有を抑え、溶接性を高めて利用します。

ノンヒートスタッドは、鉄製ですが、熱処理をしなくても強度区分8.8程度の高強度材を利用しています。つまり、熱処理によるボルトの炭素量の増加はなく、溶接性が非常に良く、強い溶接強度が得られる溶接ボルトです。また、低い電流量で高い溶接性が得られます。

熱処理不要、低電流での溶接など、環境への負荷も抑えられます。また、8.8程度の高強度なボルトのため、軽量化を目的として利用が進んでいるハイテン材に利用することで、非常に強い締結構造が実現します。

環境負荷を抑えて、高強度化による軽量化も実現するキーアイテムになることが望まれています。

 

 

 

2013/11/21 | ねじの強度
タッピンねじ⑩

タッピンねじ⑩

タッピンねじ(小ねじ、ボルト)の使用時のトラブルと解決法

その6 遅れ破壊
a)水素脆性による遅れ破壊
タッピンねじや小ねじ、ボルト等の焼入れ硬化した鋼製ねじが、締付後何時間も経てから脆性破壊を起こす現象を、一般的に「遅れ破壊」と称する。
(ネジ類だけでなく、高強度鋼部品が静的な負荷応力を受けた状態で、ある時間を経過したとき、外見上はほとんど塑性変形を伴うことなく、突然脆性的な破壊が生じる)

経験上から、ネジ類ではタッピンねじが浸炭焼入(肌焼入)を施していることから、発生度合いは最も高い。
◆水素脆化 
  鋼中に何らかの要因によって浸入した水素(H)が応力集中部近傍に集中し、カソード割れを引き起こす。
水素脆化
カソード反応(還元反応) (水素ガス面圧説)
H2.jpg
亜鉛鍍金を施した製品に起こり易い。電気鍍金により、メッキ槽中の酸により水素原子が製品に吸蔵されることが主要因と考えられている。
        水素破断
このように吸蔵された製品を締付けると、締付けによって生じた粒界の歪部に水素原子が浸入し、分子化し、更に圧力が加わり歪み(割れ)を増大させて、ついに破損に至るメカニズムです。
この破損は締付け後、12時間~72時間後に発生し易い。

◎対策
この対策としては、製品を亜鉛鍍金後に即、180゚C~200゚C程度の温度で数時間加熱し、吸蔵水素を放出させるベーキング処理を行う。
◎状況
・水素脆性による”頭飛び”は20年位前までは冬の風物詩とまで言われ、年に数回発生するのも珍しくなく、品質管理課は恐れていたもので、冬季の重点管理項目としていました。
発生すれば、人的、経費的、精神的にその負担は多大でした。
・近年は材料精度、熱処理管理技術の向上、表面処理設備の充実(表面処理装置とベーキング炉の直結化)、水素脆性の起こしにくい鍍金浴の開発等により、最近では皆無の状態になっています。

2013/10/28 | ねじの強度
タッピンねじ⑨

タッピンねじ⑨

タッピンねじ(小ねじ、ボルト)の使用時のトラブルと解決法

その5
タッピンねじや小ねじ、ボルト等を締結時に、ねじの座面が着座したとき、或いはしばらく時間が経過してから、首部からポロリと剥離し破断が生じる。
リセス付ねじの圧造においては、リセス穴の底の部分の加工度が最も大きくこの部分にフローラインがある程度密集することは避られないが、加工上の欠陥によって密集位置が悪いとか、急激な屈曲を生じたため加工歪が大きくなって破断する場合であって、材質的な欠陥は更にこれを助長する。
ねじ等の圧造(冷間)加工により製造される特徴の一つとして、切削加工とは異なりファイバーフロー(繊維状組織)が切断されず、強度、耐摩耗性の向上に寄与します。
ねじ頭部のファイバーフロー写真 (ねじを縦断面方向に切断し、断面を腐食し観察する)
s-フロー3s-フロー7s-フロー8
s-フロー2s-フロー4s-フロー5
上図写真の様に、製品の形状、大きさ、加工方法により、さまざまなファイバーフローの模様を描きます。
拡大写真を見れば、製品の形状に沿って、材料を屈折させた流れに沿って、ファイバーフロー(繊維状組織)が流れている事が見えます。
フロー4
ところが、上図の写真と下図の写真を比較すると、
下図では設計、加工方法、金型の形状等により、応力集中部フローラインが首下部に集中(下がり)し、破断(剥離)の危険性が増してきています。
フロー16フローライン
そのような場合の対策は
    1. 成分が均一で、不純物(介在物P,S,H等)の少ない結晶粒の細かい 球状化焼鈍をした
       キルド鋼を使用する。
    2. フローラインが首下部に集中しないような予備成形の形状を選定する。
    3. 圧造比、圧縮加工率が高くならないような設計をする。
    4. 首下Rを許される限り大きくする。
    5. 加工時に頭部打撃試験を施し、安全性を確認する。
      更に必要に応じて、上図写真のようにフローラインの状態を確認する。
    6. どうしても避けられない場合は、応力除去の歪取り焼鈍又は焼入焼戻工程を付加する。
      (製品に焼入工程が有る場合は緩和される)
     

2013/09/15 | ねじの強度
タッピンねじ⑧

タッピンねじ⑧

タッピンねじ(小ねじ、ボルト)の使用時のトラブルと解決法

その4
タッピンねじや小ねじ、ボルト等を締結時に、ねじの座面が着座したとき、リセス穴
(十字穴、六角穴、トルクス穴)の底から剥離するように破断する現象が生じる。
これは頭部の強度、じん性不足によるもので、設計時、加工時に考慮する必要が有り
ます。

(勿論、斜めねじ込み等の締付条件が悪い場合にも発生します)
        十字穴付き              六角穴付き
十字穴 六角穴
その対策としては、材料選定、熱処理加工条件の吟味
設計上では、設計基準の細部計算によりますが、基本的には下図の(H-T)の値を大きくし、
首下のR(又はC、テーパー)を大きく取ることが必要になります。

頭部

2010/12/15 | ねじの強度
ねじの強度

ねじ一本の力
ねじの頭部に「4.8」「10.9」など数字が付けられていることは”ねじの強さ(強度区分)”のところで述べましたが、
その強度規格は下表の通りです。
  
     強度区分
ここで、最小引張強さ降伏点・耐力で使用されている数値(N/mm2)はどのようなことでしょうか
圧力A
図に示すように1mm2(単位面積)にかかる力を表しています
応力1
すなわち、作用した力(F)を作用全面積(S)で割れば引張強さ(σ)が得られます。
では、一本のねじが支えることが出来る力は“最小引張強さ”“ねじの面積(有効断面積)”を掛ければ得ることが出来ます。
ねじの有効断面積はメートル並目ねじの場合、下表の通りです。応力面積
それでは 呼び径 M3 (径が3mm)の小ネジで 強度区分 4.6 の場合 どれ位の力(荷重)を掛けても破断しないでしょうか
       強度区分 4.6 の 最小引張強さ(σ)は 400N/mm2
       呼び径  M3  の 有効断面積は(S)は 5.03mm2  
から 400X5.03=2,012N の力を掛けても破断しません。
ですから(1Kgf=9.8Nから) 205Kgfの荷重に耐えることになります。
体重が 60Kgfの人が静かに揺らさずに3人ぶら下がっても大丈夫ですが、70Kgfの人が3人ぶら下がればヤバイかも !!

(最小引張強さなので 2,012N以上)
一度計算してみて下さい
      1.  強度区分 8.9  呼び径 M6 の場合
      2.  強度区分 10.9 呼び径 M8 の場合

 強度区分で 鉄で焼入の無い場合は 一般的に「4.6」「4.8」
       鉄で焼入を行った場合は 一般的に 「8.8」「10.9」などが使用されます。

ページトップヘ